@安威川ダム70年代当初計画では総貯水容量2,290万立方メートル、内、洪水調節容量1380万立方メートル、水道利水容量650万立方メートル、不特定利水容量100万立方メートル、堆砂容量160万立方メートルでした。
 その後2005年の水道用水確保1日7万l立方メートルから1万立方メートルへの減量による計画見直しで、総貯水容量1,800万立方メートル、内、洪水調節容量1,400万立方メートル、水道利水容量100万立方メートル、不特定利水容量140万立方メートル、堆砂容量が160万立方メートルとなりました。
 さらに2009年に水道用水確保から全面撤退しましたが、水道利水容量100万立方メートルは有効活用容量として、ダムの規模はそのままとしました。
 大阪府作成の安威川本川流域の100年確率降雨の被害想定解析の推移をたどって見れば、そこにはダム計画中止を回避し、規模を維持するための人為的操作が見られます。

 

A大阪府作成の最初の安威川本川氾濫解析は1999年1月発表の安威川ダム流域調査検討業務委託報告書です。
 それによると昭和28年9月型100年確率降雨を想定して、現況の河道では名神高速上流地点の右岸・左岸で2箇所、阪急京都線下流地点で右岸・左岸で2箇所、さらに大正川合流点下流と山田川合流点下流右岸・左岸で2箇所、合計6箇所の地点で破堤するとしています。(内水を含まず)
 さらに2003年2月発表の安威川河川整備検討業務委託報告書でも、同じ地点の破堤が予測されています。

 

B1999年1月・大阪府作成の安威川ダム流域調査検討業務委託報告書による大阪府氾濫解析です。(破堤予測箇所6箇所)
 現況河道で昭和28年9月型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所が破堤した場合の浸水箇所とその深度の状況です。
 赤色は2メートル以上(1階天井)、黄色は0.5メートルから2メートル(床上)、緑色は0.5メートル以下(床下)浸水です。

 

C1999年1月・大阪府作成の安威川ダム流域調査検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所6箇所)
 現況河道で昭和28年9月型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所が破堤した場合の浸水箇所とその深度の状況を参考に、2000年3月に安威川ダムニュース第7号(流域全戸配布)が発行されました。
 「大雨が降ったとき安威川の水はここまでやってきます」として、阪急茨木駅前は0.97メートル、北大阪流通業務団地では1.25メートル、摂津市役所で1.64メートルとしています。
 赤色が浸水2メール以上、黄色が0.5〜2メートル、緑色が0.5メートル以下としています。

 

D1999年1月大阪府作成の安威川ダム流域調査検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所6箇所)
 現況河道で昭和28年9月型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所6箇所が破堤した場合の左岸・右岸の溢水容量の総量は約27万5千立方メートルとしています。
 下段の表はモデル降雨型100年確率降雨の溢水容量でその総量は約11万9千立方メートルとしています。

 

E1999年1月と2003年2月・大阪府作成の安威川ダム流域調査検討業務委託報告書及び安威川河川整備検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所6箇所) 現況河道で昭和28年9月型100年確率降雨(時間雨量80ミリ/毎秒)が降って破堤予測箇所が破堤した場合を浸水箇所と深度を予測する場合に使用された連続盛土と堤の状況で、破堤した場合の溢水が連続盛土や堤で遮られる事も考慮に入れて、作成されています。

 

F1999年1月・大阪府の安威川ダム流域調査検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所6箇所)
 現況河道で昭和28年9月型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所6箇所が破堤した場合の想定氾濫区域内の資産の被害状況を予測しています。
 被災人口は約26万人、世帯数は約9万6千戸、氾濫面積は約3,500ヘクタール、年平均被害額は89億円としています。

 

G2002年2月・大阪府作成の安威川河川整備検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所6箇所)
 現況河道で昭和28年9月型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所が破堤した場合の浸水区域予測した図です。
 1999年調査より左岸の浸水区域はむしろ減少しています。尚、年平均被害額は約92億円としています。

 

H2006年10月大阪府作成の安威川治水計画検討委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所2カ所)
 現況河道で100年確率降雨(時間雨量80ミリ)モデル 降雨型が降って、破堤予測箇所が破堤した場合の図です。
 草色は50センチ未満、黄色は50センチから1メートル未満です。尚年平均被害額は約96億円とし ています。

 

I2004年時点の相川基準点基本高水は20降雨を検討対象とし、その中から代表的な4つの降雨を選定し、引き伸ばし率が2倍を超えない、引き延ばし後の1〜4時間雨量の判定基準は1/500確率雨量とするとしてモデル降雨型100確率雨量を採用して1750立方メートル/秒となっていました。
 したがって引き伸ばし後の4時間雨量が棄却基準となる170ミリを超える(178ミリ)昭和47年9月16日型降雨は採用しない降雨としていました。

 

J2002年2月大阪府作成の一級河川安威川河川整備計画検討業務委託報告書では、モデル降雨型相川地点での基本高水1750立方メートル/秒が適切として、カバー率100%と評価しています。
 この時点でも、昭和47年9月16日型相川基準点100年確率流量は1661立方メートル/毎秒としています。

 

Kところが2007年の神崎川ブロック河川整備計画及び安威川ダム全体計画の変更では、計算流量と計画降雨波形棄却基準の変更により基本高水流量の増量が行われました。
 これにより安威川相川基準点の基本高水流量は1750立方メートル/秒から1850立方メートル/毎秒に変更されました。
 これまでは過大な引き伸ばしを避けるために、短時間雨量が1/500以上を棄却していたが、@流域に一様の雨が降る可能性が強まったA集中豪雨の可能性が強まったB世界的に異常降雨の降る可能性が強まったとの理由から、短時間雨量が500分の1以上も棄却しないこととしました。
 即ちこれまで昭和47年9月16日型降雨は棄却していたが、採用することとなりました。

 

L上段は基本高水が1750立方メートル/秒の時の100年確率計算流量です。
 下段は1850立方メートル/秒に変更された時点での100年確率計算流量です。
 流量計算値と棄却基準の変更によるものです。
 これまで相川基準点ではモデル降雨型100年確率降雨を最大流量(1717立方メートル)としてしましたが、この時点から昭和47年9月16日型100年確率降雨を最大流量(1811立方メートル)としました。
 この流量は上段では1662立方メートルですが、下段では1811立方メートルに増えています。

 

Mこの変更により氾濫解析図も一変しました。
 2011年3月大阪府作成の安威川ダム計画修正検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所28箇所)
 現況河道では、昭和47年9月16日型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所で破堤した場合(内水を含まず)の浸水予想区域図です。
 氾濫総面積約20,500ヘクタール。黄色は床下浸水(約10,000ヘクタール)、薄紅色は床上浸水(約10,000ヘクタール)、深紅色は一階部分浸水(約500ヘクタール)です。
 1999年(氾濫総面積3,515ヘクタール)の氾濫解析図と比較してください。面積で5.8倍になっています。

 

N同じく2011年3月・大阪府作成の安威川ダム計画修正検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所28箇所)
 現況河道で、昭和47年9月16日型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所で破堤した場合(内水を含まず)の破堤箇所の溢水容量です。
 28箇所合計で約1400万立方メートルとなり、1999年調査の6箇所合計28万立方メートルの50倍になっています。

 

O同じく2011年3月・大阪府作成の安威川ダム計画修正検討業務委託報告書による氾濫解析です。(破堤予測箇所28箇所)
 現況河道で、昭和47年9月16日型100年確率降雨(時間雨量80ミリ)が降って破堤予測箇所で破堤した場合(内水を含まず)の氾濫区域被害総資産額は被害人数17万3千人、年平均被害額は約148億円としています。
 因みに1999年調査では年平均被害額は約89億円、2004年では約92億円、2008年では約96億円で、99年度対比では1.7倍となっています。
 こうした被害想定のふくらましの目的は安威川ダムの水道用水撤退によるダム計画中止や縮小を避けるとともに、ダムを建設するための作為的トリックです。

 

 

Pたしかに今回の検証の指針「今後の治水のあり方−中間とりまとめ」では「コストと事業効果を重視」するとしています。
 しかしそうであればそうであるほど、洪水調節便益の基本となる氾濫解析変更の過程をすべて明らかにすべきです。
 大阪府の安威川に係わる氾濫解析は実施の度毎にふくれあがり、この10年間で見ても1.6倍になっています。
 このような被害を作為的に水増しする理由と過程について詳細に説明すべきです。